リブランディング事例3選:ロゴの前後だけで見ない
Airbnb、Dropbox、Mastercardを、事業の変化、顧客への約束、接点から比較します。
リブランディングの事例を探すとき、新旧ロゴの比較だけでは大切な問いが抜け落ちがちです。なぜ会社は変わる必要があったのか。誰にどんな約束をし、その約束をどの接点まで形にしたのか。Airbnb、Dropbox、Mastercardをこの三つの視点で読むと、リブランディングを見た目の変更ではなく、事業と顧客体験をつなぐ選択として捉えられます。
三社の出発点はそれぞれ異なります。Airbnbは宿泊予約にとどまらず、旅先での帰属意識やもてなしを伝えようとしました。Dropboxはファイル保管からチームの共同作業へと役割を広げるなかで、創造的な仕事を前面に出しました。Mastercardはカードだけでなく、デジタル決済の場面でも認識される決済ネットワークのあり方を扱いました。以下では各社とデザイン会社が公表した目的と適用範囲を比べます。リブランディングが売上や成長を生んだ証拠として読むことはできません。
Airbnb:宿泊先から、もてなしと帰属意識へ
Airbnbの初期の説明は「泊まる場所を見つける」ことに近いものでした。ブランド制作を担当したFurther(当時のDesignStudio)は、各地のAirbnb体験を調査した結果、違いは場所そのものより、人と人とのもてなしやつながりにあると整理しています。そこから生まれたブランドミッションが「Belong Anywhere」です。
変わったのはコピーだけではありません。見知らぬ土地の部屋を見せるのではなく、そこで出会う人や体験に写真や映像の焦点を移しました。誰でも描けるほどシンプルな「Belo」シンボルも、言語を超えて帰属意識を表すものとして説明されています。ロゴとキャンペーンが同じ中心的な考えを伝える設計です。
取り組みはデジタルプロダクトの体験にも及びました。プロジェクト紹介によると、デザインチームはAirbnbのサンフランシスコ本社に入り、複数の言語や地域でもブランドのストーリーが伝わるよう、テクノロジーとデジタル体験を再設計しました。この事例から見るべきなのは「旅行ブランドが見栄えよくなった」という評価ではありません。宿泊予約を超えて旅の体験やホストのもてなしを約束するなら、広告だけでなく、サービスを探し利用する過程もその約束を支える必要があります。
Dropbox:ファイル保管から、チームでつくる場所へ
Dropboxは2017年のブランド発表で、以前の青い箱は「ファイルを保管する場所」という印象を与えていたと振り返りました。ファイルを保存するだけでなく、チームで働き、アイデアを共有する人が増えたとして、自社を人とアイデアが集まるワークスペースと表現しています。ブランド変更の背景には、見た目の好みではなく、製品の役割の広がりがありました。
シンボルもその変化を表しています。文字どおりの箱から複数の面が集まる形へと進化させ、開かれたプラットフォームや創造の場を表すものと説明しました。鮮やかな色と、文字や画像のコントラストは、異なる発想が出会う可能性を伝えます。ブランドキャンペーンも創造性や現代の働き方をテーマに企画されました。
同年初め、Dropboxはチーム向けのPaper、ファイルに柔軟にアクセスできるSmart Sync、共同作業機能を改善したウェブ画面、法人向けプランを発表しています。ブランドと製品が同じ方向を向いていたことは読み取れますが、リブランディングが製品拡張や事業成果を生んだと示す資料ではありません。実務で見るべきなのはメッセージの一貫性です。「一緒につくる場所」と伝えるなら、製品画面やチームで共有する体験、法人顧客向けの説明にもその約束が表れている必要があります。
Mastercard:カードを超えて決済の接点へ
Mastercardの2016年のアイデンティティ更新は、親しまれてきた赤と黄色の円を捨てるのではなく、デジタル環境で使いやすく整えることに重点を置きました。デザインを担当したPentagramは、決済テクノロジーが事業のなかで大きくなる状況を踏まえ、デジタルプラットフォーム、小売チャネル、接続機器で使えるシンプルで柔軟な識別システムを目指したと説明しています。会社と製品群を一つのブランドシステムにまとめることも目的でした。
ブランドに接するのはカードを使う消費者だけではありません。店舗で決済を受け付ける事業者や、アプリ・機器を通じて決済をつなぐパートナーもいます。そのため適用先には、財布のなかのカード、ウェブサイト、モバイル決済、加盟店の受け入れマーク、本社のサインなどが含まれました。書体、色、円の幾何学をもとに、さまざまな媒体で使えるグラフィックシステムも整えています。
2019年には、Mastercardは一部の場面で名称を外し、二つの円だけを使うと発表しました。対象として挙げたのは一部のカード、実店舗とデジタルの加盟店受け入れマーク、主要なスポンサーシップ資産などです。あらゆる場所で名称をなくしたわけではありません。広く知られたシンボルを単独で使う条件を定めた変更と見るのが正確です。複数の組織や加盟店がブランドを扱う場合、見た目の柔軟性だけでなく、使用ルールや切り替えの範囲も設計対象になります。
同じ問いで三つの事例を比べる
| 事例 | 事業の変化 | 顧客への約束 | 表現と接点 |
|---|---|---|---|
| Airbnb | 宿泊予約から、人と旅の体験をつなぐことへ | 慣れない場所でも帰属意識を持てる旅 | Beloシンボル、人を中心にした写真・映像、多言語のデジタル体験 |
| Dropbox | ファイル保管から、チームの共同作業と創造へ | アイデアを持ち寄り一緒に働く場所 | 開かれた面のシンボル、カラフルな表現、グローバルキャンペーンと製品体験 |
| Mastercard | カード中心の認識から、デジタル決済を含むネットワークへ | さまざまな決済場面での認識と信頼 | 柔軟な円形シンボルとグラフィックシステム、カード・店舗・ウェブ・モバイル |
この比較から、特定のロゴ形状が成功の定石だとは言えません。Airbnbではメッセージとサービス体験のつながりが中心でした。Dropboxでは製品の役割の変化をブランドの言葉で説明することが大切になります。Mastercardのように、親しまれてきた資産を保ちつつ、さまざまな運用環境で使えるルールを広げる課題もあります。
リブランディングの前に確かめたいこと
まず、事業が実際にどう変わったかを一文で説明してみましょう。新しいロゴが必要だと決める前に、製品、顧客、流通のどこが変化したのかを確かめます。変化を説明しにくいなら、新しいビジュアルだけでは顧客に伝える理由が曖昧なままかもしれません。
次に、既存顧客とこれから出会いたい顧客が、どの場面でブランドに接するかを書き出します。カード利用者と加盟店では接点が異なるように、同じ約束でも画面や案内を変える必要があります。既存顧客に親しまれた要素をどこまで残すか、新しい顧客に何を説明するかも決めやすくなります。
三つ目は、ロゴの先にある適用先の一覧です。ウェブサイト、アプリ、製品画面、パッケージ、店舗サイン、広告、パートナー向け資料、社内文書のうち、実際に変更が必要なものを選び、担当者と切り替え時期を決めます。複数のチームやパートナーが使うブランドなら、例外、最小サイズ、単色使用などの運用ルールも必要です。
最後に、アイデンティティの公開と事業成果を切り分けて考えます。新しいブランドを発表したことは、変更を実施した証拠にはなりますが、売上、コンバージョン、顧客ロイヤルティが改善した証拠にはなりません。そうした効果を主張するには、比較期間や指標を定め、ほかの事業変化の影響も含めて別途検証する必要があります。
事例を読むときの問いは「前より格好よくなったか」だけではありません。どんな事業の変化を説明しているのか、誰に何を約束するのか、その約束は顧客が接する場面でどう見えるのか。この三つをつなげると、ロゴの新旧比較がブランド戦略を理解する手がかりになります。
ブランドの親しみを保ちながら見た目を小さく変える方法は、ミニマルなリブランディング事例で紹介しています。適用範囲を定めたら、ブランド名候補の比較表で名称を維持・変更するか検討し、外部パートナーを選ぶ際は、戦略と実行の担当範囲を事前に確認するとよいでしょう。
次に何を調べるか迷ったら、デザイン参考サイトのガイドで、Web・UI・広告・ブランディングのどの問いから始めるか整理できます。